今回のお客様は、ジョグジャカルタ バティック紀行にお申込みいただいた若い女性おひとり様。「東南アジアの工房」をテーマとした写真撮影旅の途中で、ジョグジャカルタにお越しになったそう。写真撮影なので、いくつも工房を回りたいし、訪問先の工房ではじっくり写真を撮る時間が欲しいとのことでしたので、もともと1日でまわるところを2日分け、さらに、バティックだけではなくジョグジャカルタの織物ルリックをご覧いただける工房も追加。当日、たまたま、エコプリント ( ほんものの草をつかって染めた布 ) の製作も見ることができました。
ジョグジャカルタはバティックだけではありません。手仕事が紡ぐ、温もりを感じられるファブリックがたくさんあります!
1日目は、まずはバティックのイロハをご覧いただくためにバティック博物館へ。西洋人の女性がバティック体験をしていましたが、相変わらず、しずか~な博物館 (笑)。1時間ほど見学し、ジョグジャカルタ郊外のバティック村へ。今日はスタンプバティックをメインに作っている村で撮影します。
11時過ぎに着いて12時過ぎまで1軒目の工房で撮影。ここでは男性2人がニワトリや子どもたちが遊ぶ声をBGMにもくもくと仕事をしています。これまでも写真を撮らせてもらったことはありましたが、今回は至近距離での撮影。それでも恥ずかしがることもなく、ただただ同じ作業を寸分たがわず続けるその集中力。でも、不思議なことにロボット感ゼロなんですよね。
12時には職人さんが休憩に入るので、わたしたちも一旦撮影を休止し、近くの食堂で鶏料理やココナッツスープの昼食。13時すぎに同じ工房に戻り、職人さんのポートレート写真を撮らせてもらいました。次にすぐ近くの別の工房へ。最初の工房がジョグジャカルタらしいモチーフ・色合いを得意としているのに対し、2軒目の工房のバティックはアフリカ布のようにカラフルで大胆。工房のオーナーさんのキャラがバティックによく現れています。ここでは、バティックの専門学校を卒業したという旦那さんがスタンプと染めの両方をされています。一般的なスタンプは鉄製ですが、もっと簡易なもので代用できないかといろいろ試されているんだとか。旦那さんが見せてくれたのは段ボール製スタンプ。これで1,000回くらいは型押しできるそうです。今も試行錯誤が続く、生きた工芸なんだなと実感 ( ちなみにこの工房に滞在中、ジョグジャカルタの有名大学UGMの学生さんが、プラスチック製のスタンプは実用可能かという研究をしたいと飛び込みで営業に来られてました。旦那さん曰く、プラスチックは加工するのにも技術が必要という意味では鉄と同じ。耐久性も含めて段ボールの方が良いと思う。ただ、段ボールだと複雑な文様が作れないのが難点だとか )。
その後は、30分ほど車で移動し、手書きバティック工房へ。村の中の一軒家では女性2人がすごーく細かい文様を描いていました。今、この工房では約3か月かけて全長6mの結婚式用の横断幕 ( 新郎新婦席の後ろに飾るそう ) の作成をしているところだそうです。ここの工房はジャガイモの花をはじめジョグジャカルタの伝統柄を100%手書き描いており、もはや芸術品。これが手書きなんて信じられない…というレベルの完成度の高さで、一見の価値ありです。この工房の見学で16:00となってしまったので、この日はこれで終了です ( こういう工房は15:00~16:00までなんです )。
2日目は染めの行程を見るために1日目の2軒目の工房へ。特に雨季は午後から雨が降りやすいので、午前中のうちに染めをしてしまうそうです。スタンプと同じく染めも力作業。染める布の数に合わせて染料を計量するところからスタート。これまでも何度かこの工房で計量方法を見せてもらいましたが、相変わらず変な測り方 ( まず袋にどれだけ入っているか測り、容器に必要分を出し、その袋の中にどれだけ残っているか測るという方法。「なんでそんな測り方なの?」と以前聞いたのですが、「昔からこれだよ」と言われてしまいました。笑 )。どこの工房でもそうなんですが、使っている道具はその辺にある秤だったり、手桶だったり、バケツだったり。長く使われてきたそれらの道具はなんとも言えないいい表情をしてるんですよね。
1枚1枚丁寧に染め、庭に干して自然乾燥。さすがインドネシア。ものの1時間で乾いてしまいました。それらをまた工房に運び、今度はロウを落とす作業。旦那さんは熱湯もなんのその、素手で作業です。ロウを落とすと単に色が反転するのではなく、ちょっと違う感じで出てくるのが面白い。
その後、たまたまエコプリントの工房を発見!エコプリントとは、布に直接本物の葉っぱを置き、その葉っぱの模様を布に映したものです。置いた葉を叩いて布に映す技法と布と葉っぱを合わせて蒸して布に映す技法があるそうで、ここでは後者の蒸し技法で作っていました。ジョグジャカルタではコロナの最中にメジャーになった新しいファブリック。この工房のオーナーも2020年に始めたそうです。この日はエコプリントTシャツを作っていました。布に映る葉っぱの色は葉自体の色。形も違えば色も違う。その組み合わせを計算しながら作っていくそう。葉っぱはその辺でとれるものばかり。自然豊かな場所だからこそできる布なんです。
そのあとは、ルリック工房へ。ルリックとはジョグジャカルタの織物のこと。バティックばかりが注目されがちですが、今でもジョグジャカルタではルリックも正装として着用される伝統工芸のひとつ ( シャツがルリック、腰巻がバティックというスタイルがよくあります )。ルリックは機織り機を使って1枚1枚織られているんです。今回立ち寄った工房では、糸を紡ぐ・布をデザインする ( 色を組み合わせる。実はこれが一番重要な仕事のようです。この工房では男性1名がこの仕事を担い、手元には㊙ノートが置かれていました )・布を織る ( 男女混合、10名弱の機織り職人さんがいます ) という3行程に大きく分けられています。何度見ても、どういうからくりで布が織られているのか見当がつかない。どこを見たらきちんと織れていると判断できるんだろう。バティックがほぼ無音のなかで作られているのに対し、ルリックはカタンカタンと機織りの音が絶え間なく響いています。ただ、時々そのなかで一瞬だけの静寂が生まれ、何だか不思議な空間です。その音を聞きながら職人さんの手もとを見つめているとどこかにタイムスリップしたような、意識がトリップしてしまうような感覚になってきます。
14:30ごろに撮影が終わり、近くのグドゥッグ食堂でランチ。15:30ごろにツアー終了しました。
( わたしの同行は2日間でしたが、実は3日目もありました。もう1回行きたい工房や撮り残したものがあったらもう1回行くという予備日として設定。この日は、手書きバティックの様子を撮りたいということだったので、ドライバーのみでジョグジャカルタ東方の手書き&自然染料で染めるバティック工房を訪問。最後にジョグジャカルタ南方の銀細工村コタグデで銀細工製作過程も撮り、3日間の行程が終了しました )
バティック
ルリック
エコプリント
どの工房でも、熟練の職人さんたちが「自分たちは伝統工芸を担っているんだ!」という気概一切ゼロで (笑)、ゆるりと作っている布。伝統工芸だからと言って頑張っていない。すぐそこにある布という立ち位置だからこそ、続いてくもの。続いていってほしいもの。
「職人さんたちが作り出した布を適正価格で買うことが、工房が続く一助になるはず」とパートナーに力説し、わたしは今後も職人さんが作った布を買い続けます!